2003 11/21 ヘヴン  「HEAVEN」 トム・ティクヴァ監督  最近観た映画で一番良いです。何がって、ケイト・ブランシェットの存在感がすごいです。ポスターで気に入り、ジャケットで気に入り、内容も気に入るということはそれほど多くないのですがすべてを満たしてくれる私好みの映画でした。とにかく、冒頭の爆弾を持って街を闊歩するケイトの服装、雰囲気すべていいんですよ。「エリザベス」の時からかなり気に入りましたが、今回で私は好きな女優はケイトとはっきり断言できるようになりました。裏話があるのですが、「エリザベス」の時、英国人とテニスをしていて休憩のときに「エリザベス」見た?と聞いたことがあるのですが、そのとき「誰がエリザベス演じているの?」と聞かれたことがありました。「ケイト」と答えると「キュートだ」と返事されて、私は「そうかなあ、キュートかなあ?演技はうまいけどあんまり魅力ないような感じがする」と心の中で思っていました。しかし映画「エリザベス」はここ数年のベストの作品です。そして「vanity fair」の映画のスナップ特集でケイトの写真を見たのですが、なんと威風堂々としているのです。このころから私のケイトに対する見方が変わってきて今回打ちのめされました。 内容は男の一目惚れと純愛、女の復讐と罪の償いと愛の芽生え、そして文字通りへブンで結ばれるのでしょう、という単純な内容です。ストーリー展開でちょっと強引なところがあるのですが、映画ですし、そんなところは目を瞑って二人の「愛」に浸りましょう。 男の瞬間の一目惚れ、こういう状況がとても良いんですよ。本当に心の本質がうち響く瞬間というのがあるんです。それに対して女性のほうは「罪の意識」と「復讐の未完」とで気持ちがずたずたになるんですね。しかし男の愛情と信頼で二人して逃亡生活の賭けに出て復讐は達成されるのです。この時点で女は生きていく必要性はもうないのですが、男の愛情からうまく罪の償いができないのです。そして逃げているうちに、また愛するということを、思い出していくんですね。この辺の描写が、もうとってもいいんです。なんというか二人で逃げているシーンなんか青春真っ只中という感じで二人の距離感が素晴らしい。深く入り込んでいないんですがとても信頼しあっているんですよ。しかし二人とも瞬間に燃え上がった愛としても長く続かないことは承知なんですね。最後の方で女の友人の家に逃げ込んで、ちょっとしたつかの間に二人は結ばれるのですが、そのあとに永遠の旅立ちをして幕が閉じるのですが、終ってもしばらく呆然としておりました。 燃え上がる恋の素晴らしさもそうですが、二人とも犯罪を犯しているのですが、表面では追っ手となるんですがもっと悪い奴らが出てくるんですね。それらの人に比べてこの二人は本当にピュアなんです。そこがこの作品を魅力的にしているんです。 「この人と思ったら、突っ走る勇気」に乾杯したい気分です。本当に良い映画でした。   2003 11/22 「傷跡」(BLIZNA) KIESLOWSKI監督 1976年作品 主人公は工場を建設する担当の監督官でいわゆる役人です。 工場を林野を切り開いて建設するということは環境破壊を伴い、市民の生活の場の破壊をも意味するのです。一方、市民の雇用の確保も重要でその狭間にさいなまれた男の苦悩をうまく描いております。 「真実(環境破壊)と信念(雇用確保と共に快適な住空間の創造)が違ってしまった場合」の官僚からのプレッシャーと住民、市民の苛立ちや弾劾がこの主人公を追い込んでいくのですね。そして「自分をおろかな人間だと思う」と辞任を申し出るのですが認められず、最後まで責任を取れと言われます。 この工場を作る過程や工員との折衝など、やけに生々しく、1976年だから再現できる東欧独特の雰囲気だな、今では再現するにもここまでリアルに出来ないだろうと思って、時代性を感じていたのですが、終って解説を見ると、この映画はドキュメンタリーと映画の結合だったのです。ドキュメンタリーはこの監督によるものではないのですが、そのドキュメンタリーに隠された、担当役人の(主人公の)気持ちの揺らぎ、部下の裏切りなどをドラマとして脚色して、つなぎ合わせていたのです。やけにワレサ議長のグズニスク造船所でしたっけ、「連帯」が組織されたころの雰囲気がそのまま画像として映し出されているのでドキュメンタリーの部分があると知って納得いたしました。ちょっとアンジェイ・ワイダ監督の映画のテイストも味わえます。 「傷跡」というのは具体的に環境破壊もあるのですが、実は主人公は工場ができる前ののどかな景色、住民の生活が好きだったのです。ゆえにその生活を壊してしまった自分の判断と責任に対する心の傷でもあるのです。最後、解任されて一人犬とじゃれているシーンはこの主人公の気持ちが充分に表現されていてうまいドラマの方の幕がおりたと思いました。こういう書き方をするとつまらなそうですが、人間のエゴ、人間の判断の限界、官僚制の弊害などがうまく一人の男の心情を絡めて表現されていて観ているとあっという間に時間が過ぎていきますよ。

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