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そして、Aは判事と劇場で別れたあと、「やさしい」気持ちになっているんです。ポストに郵便物を入れられないお年寄りも助けてあげたりして、以前の活発でバレエのレッスンのあと水をがぶ飲みする時とは若干世の中に対する感性が変わってきてます。ここがテーマです。「博愛」です。

それは最後に船に乗って恋人に会いに行くとき、ドーバー海峡で船が遭難します。何人かの救助された人がいますが、「青の恋」「白の恋」の恋が重なり合い、その主人公たちが偶然そこに居合わせてすべてが救助されます。そしてAも救助されます。遭難のニュースを今度は新聞で知った判事はテレビを(テレビはAからもらったもの)子犬たちと見ていますが(子犬はAに分けてあげる約束したもの)最後のほうで見つかり、判事はほっとします。今度は心の恋人を死なせずにすんだのです。すなわち、相手を追い詰めないで理解してあげる余裕ができたことを実感できた瞬間でした。ここで終わるだろう、という瞬間にさすがに終わりました。一連の3部作も終わってしまい大事に見てきた楽しいときも一旦は終わりますが、本当に私の中ではこの3部作はすごく大事な映画です。

 

 

「未来世紀ブラジル」 テリー・ギリアム監督 1985年 英国

 

なんだかわからないうちに、タトル氏が情報省に拉致されたところから始まる。すると何か変な研究職のラインがある研究所が映し出せれるが、情報記録省らしい。するととんでもなく、空飛ぶ男が現われ、かごに囚われた女にキスをする。これはすぐにこの空飛ぶ男の夢だと気づく。朝目がさめたシーンが挿入されているからです。すると不完全な通勤準備マシンが動き出し、いろいろと準備してくれるんですが、そこは人間毎日同じものではなく、一部しか使わないし、マシンのほうも壊れている。

なにか、情報省というのは権威の象徴みたいで「真実は自由をもたらす」とか「情報省は市民の味方」というキャッチフレーズが目に入る。主人公となる男はAとすると、情報省の閑職の記録局に在籍している。母親が有力者で、昇進させてもらえそうですが、Aは呼びつけられた食事会で断る。この食事会もマダムの溜まり場でみんなどこの整形外科が良いのか自慢しあっている。出てくる食事も違う材料で同じ形のもので、ここまで画一化が図られている。部屋の空調が故障しても修理は独占で国が担当して、サービスが悪いのでもぐりの修理工がいるくらいなんですが、まあ独占の弊害が描かれてます。あと先進技術の矛盾ですね。人間はいかに平和に生きるのか、を皮肉ってます。あと人間が生きる感覚を鈍感にしたときに夢は戦うことばかり見るんです。そして、姫を助ける夢を特に見るようになってます。途中、戦う敵が「日本の侍」なのには辟易しました。その侍をやっつけて仮面をとると自分の顔があるのです。権力の暴力というところでしょうか。私も英国にいくたびに日本を風刺したものにぶつかります。そういう時は居場所がなくなります。昔はちょうど「ミカド」を見に行ったとき。この前はたまたまミュージカルで「南太平洋」見たときです。ピンクフロイドの「ウォール」を見たときも隣の方に戦争は好きか?と聞かれたことがありました。 

映画の続きに戻ります。しかし、記録局で小切手事件があり、払い戻しをしなければならないことの代理で当事者に会いに行くとバトル氏の奥様でその周辺は荒廃したスラムの雰囲気があり、その中で上の階の女性がいつもAの夢に出てくる女性だと知ります。それからはこの女性を知りたくなって、昇進を願い、情報剥奪局に入ります。そこで親友が容疑者を殺す仕事をしていて、バトル氏も殺したと聞きます。誤認逮捕だったのです。それで、逆に誤認逮捕の目撃者である「夢の人」も殺す予定だと知ります。とりあえず、Aは「夢の人」のファイルをもらい、自分が処分するといい、出かけます。すぐに誤認と主張に来ていた「夢の人」に会います。エレベーターでひと悶着あったあと、どうにか車を情報局から遠ざけて、自分の気持ちを素直に言いますが相手にしてもらえません。実際に相手にとっては初めて会う人ですし、Aは勝手に「夢の中」で出会っていただけなんです。この辺もパラノイアと夢の境目を行ったり来たりの感じがしますね。

「夢の人」を情報局から連れ出して、一緒に逃げますが、当然当局に追われます。なんだかんだでも捕まりますが、もう空飛ぶ人間との混同が入り始めまして、「夢の人」と抱き合うことしか目標がなくなります。猪突直進ですね。「夢の人」が追われているので、記録上抹殺をして死んだことにすれば追われなくなります。しかし今度は記録改ざんでAが捕まります。最後に脳の検査というか手術を行われそうになると、タトル氏が助けに来て、情報局を爆破に成功します。(この辺はもう、妄想なんですが)そして脱出に成功するとタトル氏は情報の紙にまとわりつかれ消えてしまいます(情報局爆破だから紙なんでしょうが)。そのあと、母親の葬式とかに参列したりするのですが壁にドアがあったり、穴があったりで向こうの世界にいったり穴に落ちたりしているうちに最後にタトル氏に助けられ、「夢の人」と静かな牧草地帯で生活している風景が頭に浮かびます。ここで終わりです。めでたし、めでたし。なんという映画なんだ、と思ったんですが、

このあとがあり、実は妄想で完全に狂って終わるというオチがつきます。

こうなるとメルヘンチックな終わり方と現実の社会の脱落者としての風刺が数秒の間に転換してしまうんです。いや、参りました。しかし昔観たときにはなんとも思わなかったのですが今回はすごく面白かったのは年齢のせいでしょうか。「ブラジル」とは全編に流れる音楽の名前で、頭の中がサンバのようにめちゃくちゃになった感じというふうに捉えるとわかりやすいタイトルだと思います。お勧めの映画ですよ。この分ですと「バロン」も、もう一度見たほうがいいかもですね。あれもつまらなかった印象があります。

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