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そして恋人の男が簡単に警察の前で女を裏切ったことを知るのです。さらにもうひとつ、母の居場所がわかりました。そしてここが若さだと思うのですが、電車から飛び降りて向かうは母の場所ではなく、男の場所なのです。男は未練がましく、抱きますが、本気ではないのでしょう。しかしAは恋愛を信じています。そして身をささげるのですが、ここで何か感じ取るものがあったのでしょう。別れる決心をします。この思い立つ気持ちというのは大事にするべきですし、後悔がなくて良いと思います。次に向かうところは、実家でした。実家は事業が傾きつつあり、あの初恋の男はやめさせられていて、周りの視線もどこか冷ややかなものとなってます。

しかしたまたま見つけた昔の男と焼けぼっくりに火がついちゃって、心中するのです。これじゃドラマが終わるので、Aは生き返る。男も大丈夫でしょう。

その男の母に、「お前は母親にそっくりだ」と言われたことから、母に会ってみたくなります。この母は佐渡にいます。佐渡の映像はまさに「砂の器」の映像のような景色で人間の運命を表現しているかのようなものですね。

この母親役、岩崎加根子さんでした。あの「人間の条件」に出てきた美人の人。もうちょっと面影しかないんですが。

ここで逆転ホームランのように母を理解し、父を理解し、自分を理解して何をすべきかがAにとってわかってくるのです。これはみんなが正直になったおかげです。そして縁談。金持ちとの縁談ですが、とってもいい話なんですよ。それを薦める人間が嫌いだからといって避けてばかりいては前に進めません。いまはそのような障害もなくなってめでたく結婚式。

「昭和残侠伝血染めの唐獅子」マキノ雅弘監督 昭和42年

昭和初期の浅草、とりあえずお決まりの満州事変の数年前です。みんなこういう発想がないんですよ。東京博覧会らしい。ここでひとつ大きな視野を持ちたいのですが、この映画に出てくる人たちが真に戦争を望んでいたか、というとこの映画の人たちでさえ望んでいなかったと思います。

鳶職人の頭は大喜びしますが、そこに博打畑の組の頭が建設業に(笑い)進出するということでこの大きな仕事を請け負いたいと懇願に来ます。浅草地域はこのとびの頭が江戸時代から任されていると断ります。元締めなんですよ。ここで鳶の話をしたいんですが、うちの店を作るときも優秀な鳶の人たちが入ったんですが、それは周りとか通行人も見物するすばらしい仕事でしたよ。仕事自体が人を惹きつけるんです。

とにかく、この新興は政治と組んで入札制度導入を考えてます。確かに入札制度は自由競争でしょうが、今でこそ、この制度は有用だと思いますけど、この時代は街の仕組みを変えてしまうものではないでしょうか。今残っているゼネコンの母体を見れば地域密着というよりある時期から金の勢いで急成長したという印象はぬぐいきれません。この自由競争という名の元、大事なものを失ったかもしれません。実際食えなければ、負けですし、撤退しかないのです。鳶なんていうのは職業を超えて文化だと思うんですけど。

そんなときに鳶のエースが帰ってきます。健さんです。(Aとしますなんていえないですよね)すぐに頭になってくれと周りの願いがきます。しかし「無理と断りますが」無理やりに頭の羽織を着せられると「受けます」。この受けるということは周りの懇願を(信頼を)受けるというすごく重いことなんです。それを承知でなるというのはなかなかできない。今は逆に周りから頼まれなくても自分が、俺がなりたいというやつのほうが多すぎます。

そこに良さんが来て「俺がいる限り俺の一家とお前のところを敵味方にはさせないつもりだ」とかっこよすぎる。良さんの妹が純子さん。健さんの家で待っているとのこと。結ばれます

そして入札。新興は白紙。結局、一番安い値段を読み上げてできレースにしようとするのです。それがばれて、鳶の連中に落ちます。しかし良さんは疑われるし、土建の仕事に口を出してはならないといわれます。絶対に「渡世の仁義」は守る男なのにもったいない。

そんな時新興の親分が良さんの妹を嫁にといいます。

しかし新興の親分の嫁に、と言われてた女がいます。当然断りますが、話はややこしい方向に。借金のかたなので、金を作らなければなりません。鳶の一人(B)が火消しの纏を質入して金を作ります。しかしそれが敵の手にいってしまいます。みんなでお金をかき集めます。小頭の母親も気風が良いですよ。また金を返すときの気風のよさ。集まったお金すべて、多い分は利息でつけてやれ、と。たった一日ですよ。この辺の一言一言がすごく勉強になります。しかし金を持っていくとそのBは殺されます。そして警察沙汰にされ、Bの一人芝居ということになります。纏は当然帰ってきません。しかしBの好きな女が新興のボスのところに行けば問題は解決です。行く決心をして、纏を火事現場に持ってきて「堪忍してください」という女、それを受け取る健さん。しかし女は自殺をします。その死体を持っていってお礼を言う姿は泣かせます。しかしこれにもめげずにどんどん業者を引き抜き、脅し、仕事ができないようにします。そこで良さんも新興土建や博徒を破門になります。これで良さん健さんが二人で殴り込みをかける準備はできました。その前の藤純子さんのせりふは女の気持ちそのままです。

最後に警察の捕まるとき、警察は個性喪失した役人で、中央に男と女。女が自分の作った着物の着崩れを直してあげて、いつまでも待つと無言の返事。良いですよ。

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