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そして自殺は自分の敗北であるから他人が殺したように見せかけなければならない、というのもすごいことです。ですから殺人が起こると意外とあっさりと解決はつきますし、犯罪が波及することもないのです。それでこの短時間の事件追求のときに、岡山の田舎の自然、風土、旧家の家の構造を映像で提示されるのですから、そのまとめ方はうまいですよ。この草いきれのまるやま、と瓦の勾配の急な旧家の大きさはどこにでもある日本の田舎(庄屋)の風景なのでしょうが、自然の中ですごした日本人が、そこでこのような精神構造を育てていくという皮肉な映像でもあると思います。

はじめに戻りますが結婚式での三々九度、「高砂」の謡曲、琴「おしどり」(この本陣のしきたりだそうです)あたりの流れはしっかりしてきれいなのですが、そのしっかりした二人の奥にはこのような決意があるからしっかりとしていたのでしょう。

妻となる女が琴の音色に一瞬びっくりしたのは旧家のしきたりに入り込めない、不順なものをいつしか無意識に感じたのでしょう。そうですね、純潔なものにしかこの琴の曲は弾けないのでしょう。親戚一同が着物で参列している様子は、実はうらやましい風景です。景色や家の構造にしっとりとマッチしています。

「白鳥の湖」 ベルリンオペラバレエ団 1998年

私たち日本人はロシアバレエ(ボリショイ、キーロフ)、パリオペラ座、ロイヤルバレエと見慣れてしまっているので、どうしてもそれらから比較すると、個人レベルでは落ちます。

ソリストの踊りも、この演目ではそんなに難度は高くはないのですが目立ちません。まあオリバー・マンズというのか王子役はかなりいい跳躍をしております。あとステフィ・シーファーというのかオデット役もやわらかさのある踊りです。コールドの部分はさすがにキーロフなんかの比較ではないです。

しかしバレンボイム指揮のオーケストラの音の鳴り方はまとまりがあり素晴らしい。すごくリズムを強調して踊りやすく演奏しております。金管も派手ではないしね。

本当にオーケストラは最高です。そして映像のアングルが正面と上方からうまく舞台の雰囲気を伝えていて臨場感ばっちりです。私はバレエは一番前で観るのがすきですがまさにその雰囲気が伝わってきます。

そしてプリマドンナSTEFFI SCHERZERは記憶すべきバレリーナです。素晴らしい。年齢は若くはなさそうですが、もう知り尽くした踊りというか、多分得意にしている演目なんでしょう、本当にうまいです。

そして「舞踏会」のシーンの演出は際立ってます。すごくわかりやすいし、ゴシックの雰囲気充分。最高です。楽器のソロもさえて舞台と音楽の一体が図られてます。ここは本当に楽しい演出。

「八甲田山(はっこうださん)」森谷四朗監督 1977年

この映画観た事がありません。たぶん洋画ばかりのときに封切られたのでしょう。

明治の日露戦争前夜の弘前。この戦争はかなりいい戦争というか戦術も素晴らしい。ここで例の連合艦隊が名乗りを上げ、大艦巨砲主義が定着したのは不幸ですけど。でもこれは陸軍の話ですし、遼東半島での決戦の寒冷地対策としての予備訓練のことです。

青森と弘前、青森と八戸が遮断されたときに通路を作るとしたら八甲田山しかないからその寒さを体感して来いとのことです。

まあこの映画のころがこの時代の映像を作りうる最後の俳優が揃っている感じですね。今では明治時代を表現できる俳優はいません。何が違う?顔が眼光が違うのです。

弘前出発と青森出発で八甲田山ですれ違うという計画が無理があるみたいなんです。それは弘前の小隊の計画ルートでも明らかです。弘前から十和田湖系由で八甲田山というのは車で考えても遠いですよね。

とにかく出発の日。弘前隊から青森隊に手紙が「途中困難極めたときは、武士の情けで救助を」このことは、厳しい行軍になると暗に言っているのです。

失敗するときはすべてそうなんでしょうが、後から思うと、あそこでこうしておけば、と思うことの連続です。青森隊は編成を大きくして、かつ地元のガイドまで断ってしまいます。どうしようもない状態に追い込んでしまうのです。当然、めちゃくちゃな状態に陥ります。指揮系統が複数できてしまうのと、現場と指揮権限の不一致がこのような状態を招きます。その前に、予備訓練が安易に終わったことも油断させる原因となるのです。

青森隊は自分で精一杯になりますね。弘前隊は案内人の元、順調なのですが、外でビバークするなど一応訓練とはいえ無理をします。

青森隊を見て興味を覚えるのは「指揮命令系統が不安定になると、それまで我慢してついてきた部下が倒れていく」ということです。これはよい研究材料なのですが、実際生きて帰らなければなりませんよね。実際に目にしたものしか事実は見ていないのですから、戦場を体験するのと同じことですね。

そして終盤、弘前隊の隊長の幼少のころの心象風景が映るのですが、その美しい、夏とは対照的な冬の残酷さを描き出します。これはまったく自然の驚異です。

最後、青森隊の隊長の遺体は、消えぬ友情で結ばれた弘前隊の隊長を待っていたのです。その無念と約束を持って。しかし山で見たあの遺体は魂だったんでしょうか?

ラストにかけて、たまらない感情の高ぶりを感じる映画です。

その後の彼らの消息を含めて。ちょっと涙が止まらなくなりましたね。

 

「パピヨン」フランクリン・シャフナー監督 1973年

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