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住む場所を失った夫は街で大道芸みたいなことでどうにか生きている、この世にいるという存在だけになってしまったのです。愛の喪失です。そこで祖国ポーランド人と出会う。なぜ、彼が立ち止まったかというとポーランドの曲を紙笛で演奏していたからだ。彼はブリッジでパリで勝負して生活をしていたがある仕事をする人間を探しているというのだ。仕事とはポーランドで殺しをしてほしいということ。その相手の素性を聞くが妻と子供もいて金もあるという。この夫にないものばかり持っている人が、何で死にたいのかわからない。しかし、妻の様子を見に行って電話すると妻は男と寝ていてその様子を電話で聞かされる。あてつけですが、その電話代の最後のお金で残った2フラン硬貨をとりあえず、フランスの思い出として持って帰る。これを後に自分の葬式の身代わりの死体に投げ込んだんで、そこでフランスとは切れたんでしょう。すなわち、妻とも切れたのかもしれません。そして、仕方なく仕事を受けるがポーランドは祖国なのに帰ることができない。パスポートをなくしているのです。妻が捨てたのだろう。その男のトランクケースに隠されてポーランドに戻るが途中トランクケースが盗まれてしまう。そのままお金を持っていないので捨てられる。とりあえず、仕事(殺し)はできないがポーランドのどこかに着いたわけだ。ここで流れる音楽は最高、ピアノから展開する曲でポーランド編の映像のテーマ曲のような感じでしょう。とりあえず兄の実家を訪れると優しく出迎えてくれ、お客様も、ついてくれる。腕がよいのでお客様も喜ぶんですね。(パリとポーランドを結ぶこの移動も自由化の恩恵な訳です)しかし両替商に勤め、役に立ちそうもない善人そうな顔から用心棒の役目をもらう。まあ捨て駒ですね。しかし、仕事のときに盗み聞いた土地開発の話で土地の買収を始める。人がよいので相手に信用してもらえるしうまく買収は進む。そんななかパリの殺しを依頼した男がたずねてきていて探して会うことができる。そして夫のほうから仕事を引き受けたいという。ここまで彼は裁判からいやな人間の一面しか見ていなく、違うのはポーランドという祖国と兄だけだった。殺しでもやってもいいという気持ちだったのだろう(しかし、後から思うと事業資金を貯めて何かにささげたい気持ちが強かったはず、だいたい、このころ遺言状を書いていて遺産は一括、教会か何かに寄付するつもりだったはず)。しかし「殺し」はその依頼人自体を殺すことだった。実際に現場で銃を撃つ。空砲だったが相手にも人生をやり直すくらいの後悔は与えた。依頼人は依頼を取りやめ、(人を助けた)酒を飲んで意気投合する。ここで多かれ少なかれ、生まれ変わったのだ。多分夫のほうはポーランドに来た時点で生まれ変わっていたと思う。この依頼者はここで生まれ変わった。この最悪のどん底の気持ちからの精神的開放がテーマでもある。第二のテーマである

その後、元手を土地取引と殺人(未遂)で作って事業に乗り出すのですが、これが成功します。なぜかって、これは私の推測ですが、金持ちからお金を取り、恵まれない人に都合がいいような事業に専念した結果、その施しの気持ちから態度に自信があったのでしょう。また、いやな人生だったのでだまされないすべ、またはだます奴を本質的に見抜けるようになっていたのでしょう。これは殺人を依頼したやつを共同経営者にしたことでもわかると思います。二人ともいちどは死ぬような思いをしていたんです。成功してきても妻を忘れることができないので、あることを思いつきます。それは妻の反応を見ることです。本当に私は嫌われているのか、わからなかったんですね。そして死んでしまったような見せ掛けを作り上げます。自分は引退しても問題ないでしょうし、ここで遺産の相続人を妻に

変更します。そして、妻に電話してみるのですが切られてしまう状態なんですがね。しかし死んだこととするとなんと葬式には彼女は来るのです。ここは来るかどうかもわかりませんし、映画を見ていて来ないような流れなのは事実です。可能性は新婚のころの感情がどのようなものだったかでしょう。夫のほうは離婚したときに思い出します。妻のほうは葬式に列席してもみて、感情としての悲しさは覚えるのです。この葬式の様子を影で見ていて、あとで妻の泊まっているホテルに先回りして部屋に隠れているんです。ここで、妻のほうは夫が死んだと思ってはじめて気づく感情や思いがあったのでしょう。手をとり、膝枕なんかをしてこのときは離婚の原因となったようなことは起きませんでした。しかし妻が起きる前に部屋を出て行ってしまうのです。ここの意味がよくわからないのですが、感情の確認だけだったんでしょうか。このまま一緒にならなかったということは、意外とロマンティックなことばかりではないでしょう。一度の確認をしたかっただけだと思います。しかし一度に遺産として大金が入った妻は警察に疑われ、かつ死体の状態が当然のごとくおかしいので、まあ容疑者になっていくわけです。そして、妻の中では夫は生きているのですから、精神的におかしくなっていくのです。そして最後のシーン、夫が会いにいけたので警察ではないと思いますが、精神病院かな、の窓越しに妻が手話で話しかけているのが見えます。その言葉で愛情が再確認できたのです。ちなみに妻があの結婚式の様子を思い出したのは夫がホテルから隠れてしまったときです。葬式の後ですね。つまり白の愛は愛情の復活だったわけです。最後に会いに行く前に弁護士が言った「トンネルの先に光が見える」という言葉がテーマです。蘇生。すべてはいい状態に収まる。がんばりたいと思います。

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「満員電車」 市川昆監督  1957年

大学(最高学府)の卒業式の変遷からスタートして小学校の入学式で終わります。

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