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男(大学出たばかりの男)がいう「日本は訳もわからなく張り切らなければならないようにできている」という言葉どおりに、町に出ても人ばかり、歯医者に行っても人ばかりです。この男は張り切っているから女との身辺も整理していくんですが、女のほうもそんなに気にかけちゃいないんですよ。この時代も意外とドライですね。結局ビール会社に就職するのですが、尼崎の工場勤務になります。工場というのは音がうるさくて神経的に張り切りすぎて心身症が歯に出ていたのでまったく直りません。その痛みに輪をかけるように、仕事をてきぱきやると、呼び出しをかけられ、「君だけが能率を上げたら会社の合理的運営が妨げられる」といわれます。確かに、歯車は同じスピードで回らなければなりません。決められた仕事量をきめられた時間内で行うように注意しなければいけないんです。すると「忙しくなくて暇がない生活」になるんです。このことは対に、工場の生産ラインが出てくるんですが、規則正しく機械のように人間も動かなければならないのです。この辺から人間性重視の勤務形態が研究されたんでしょう(GEなどですね)。またこれに輪をかけるごとく主人公の父親が「正確に、秩序正しく張り切って」という教育をしているんですよ。「自分に自信を持つこと」も教え込まれております。すると社会が矛盾だらけに見えてくるんです。主人公はそれでどこか、うまくなじめないんですよ。そのために心身症的な病気は歯の痛みからほかの部位に移っていきます。決して直らないんですよ。

さらに笑えるんですが、独身寮にはおばあさん、母、妻の役をやるような男の人がいるんです。変におせっかいというか、何でも気づくタイプの人ですね。そして会社に慣れている人です。その人は主人公に「怠けず、休まず、働かず」と教えてくれるんです。しかしいやらしい性格もあり、自殺した人の話とか聞いてもいないのに教えてくれるんですよ。しかしみんなに頼られてはいるんですが、後でわかったことですが、こっそり勉強していて、資格試験に合格できないで、多分、この人もノイローゼだったんでしょう。勉強のし過ぎで過労で倒れます。

それでいて、休みにはすることがない、サラリーマン生活。そんなときに父から「母が狂った」と手紙をもらいます。大学の医学部に母を診てみてくれる人がいないか募集すると応募者がいて診に行ってくれます。その結果は父親が精神病とのこと。母親が訪ねてきた時に、「つらいことがあると笑うことに決めた」といい、「お父さんがおかしいのよ」と聞かされますが、もうこの時点で誰が正しいのかわからなくなってます。自分の病気も悪化して母が来たときは髪の毛が真っ白になってしまうほどでした。しかし体の痛みはどこにもなくなっているんですね。どういう比喩かわかりませんが、心身症が髪の毛にまで来たのでしょう。

話が前後しますが、昔の女も訪ねてきます。教員になったのですがくびになったのです。でも昔の恋人同士が言う言葉がいいんですよ。「職業とか結婚とか愛とかを分けて考えたくはない」「みんな生きるということでしょう」という具合です。この映画のとき22歳としたら今は計算すると68歳くらいですよ。このような現在の初老の方の若いときってこんな感じだったんだ、と思うと周りの人見ても何か不思議です。笑い。ずいぶんと若いときは今と違うこといっていたんだとか。とにかく、女を独身寮において置けないので、また給料が安いので男も結婚に踏み切れなかったので、大阪まで送っていくのですが、「人が多いけど、みんな歩いているだけで、品物も見ているだけで誰も買っていない」という女の言葉は私も感じます。今も昔も同じなんですね。

結局、世の中みんなおかしいのかどうかの境界線上にいるということなんですが、男は父と母のどちらがおかしいのか見に行くことにします。すると精神病院にいるのは父親で、「私以外はみんなキチガイ」「ここには秩序がある」なんていっているんですよ。先ほどの応募者はこの父親に精神病院作らせてそこでなりあがるつもりなんです。とにかく病状について話を聞くと「父親のほうがおかしい」といいます。さらに病院を建設したことを尋ねると、成り上がるためには仕方ないといいます。しかしそれを言った後すぐに交通事故に巻き込まれるんですが、まあ要領だけで、なりあがろうとするには運がなく、すぐに交通事故にあいます。主人公も電信柱に頭ぶつけて倒れます。
その治療に32日間かかっているうちに無断欠勤ということでくびになります。この休みが休養になり精神的に良好になるのですそのあと職探しに入りましたが良い仕事がなく、学歴が邪魔なので高卒くらいに詐称して小学校のこずかい、の仕事につきます。その仕事も学歴がばれてやめる羽目に。先生より学歴がいいのがばれてしまったんです。そのため、近くで学習塾を開こうということを考えました。母と二人でどうにか、やっていくでしょう。なにか挫折感のあるシーンですね。しかし主人公は塾の成功を祈っているんです。結局、彼は大学は出たけれど、、ということになってしまいました。若い監督の映画ですね。まあ、言いたいことはわかります。なにか今一歩という感じはするのですが、たぶんちょっと冗長なのでしょう。よく観ていないと話わかりにくい部分もあります。しかし金田一シリーズよりはずっと毒気あって良いとおもいますよ。

12/9

 

「草迷宮」  寺山修二監督 1979年

またか、というテーマです。最近見た映画のほとんどはこのテーマのような感じがするほど映画にあうテーマなのか、母の呪縛を逃れられない少年の話です。(「サンタ・サングレ」「オー・ド・ヴイ」もそうでしたね)

砂丘の中、女が一人手毬歌とともに現れると、少年が手毬歌の歌詞を知りたいという旅を続けていることがわかる。男と女が絡み合うシーン。この二人にも手毬歌の歌詞聞いてみたらしい。当然母から聞いていた手毬歌の話なので母に聞きたいが死んでしまったし、おばは発狂してしまっている。(「満員電車」じゃあるまいし、こうも続けて狂った人が出てくる映画ばかりなのかと自分でも不思議です)母の先生のところにも聞きにいくが知らないという。

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