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AがFを毎日尋ねていくシーンが日替わりではいるのですが日々の移り変わりが、リズムをなし、本当によい夫婦みたいなんですね。生活と精神的にリズムが出るというのは波長があっているのです。Aは知らずに「赤いカーネーション」を持っていくのです。大体よく言われるのですが、女性から見て赤く見える男の人、または赤を連想する男の人は愛している人と言われます。これ自分もよく聞いて見たりしてます。しかしAがFに赤いカーネーションの話題につけこんで(両親も願ったり、の振りをAにしますが)結婚を申し込むシーンは白眉でしょう。黒澤監督の映画でこれだけ愛情が前面に出たのも、女が中心に描かれたのも珍しいです。「しーーん」と一同起立。その思いの強さが感じられるシーンです。

AFともにふたりの間にCがいるのを知っていて知らない振りをしているのです。とくにAは致命的な感じです。どこかでこの精神的破綻は大きく出るでしょう。

吹雪の中FはCに会いに向かいます。ここはすごくポイント高いですよ。最大の見せ場。その前にCはAがFと幸せになることを確認して去っているのです。それを待っているCとB,そこにイワノビッチの「ドナウの小波」がオルゴールで奏でられ、Cの独白が「Aは私の夢の塊です。見るのが怖い(幸せになっている姿は見たくない、しかし幸せになってもらいたい)」この構図、音楽が良いでしょう、中央にステンドグラスをバックにマントの原節子、手前に画面を横切る形で三船敏郎が寝てます。顔を上げているので右下に男の顔、中央に女の顔とバランスがすごくいいのです。「あの人私にとって理想なの」。

AFはFが行く気になっていてAは止めてます。BCはBは知らない不利、Cは恐ろしい思いで待ってます。そして時間が静かに流れていきます。会ってからの原節子と久我美子のにらみ合いでCもAに対する愛情が残っていることがわかります。なんだかんだ言っていても忘れられないのでしょう。久我美子が「あなたもちろんご存知でしょうね、私があなたに会いたいわけを」というのですがCは知らないと、実は私もわからなかったのです。何で会いたいのか、それは「相手の女に勝つためでしょう」としか思えなかったのです。

違いましたね。「何故傷つけたのか、何故捨てたのか」と問うのです。それでまだAを判っていないというのです。犠牲の押し売りはたくさん、とCを批判します。

Cも勝負をします。Aに対してCとFどちらを選ぶのか問います。これはこういう聞き方をするとAが答えられないのでAの精神的破綻の予備線でしょう。私ならこの状況なら久我美子を選んで原節子を心の中に永遠に忘れないでしょう。でも永遠に忘れないなら今これが最後のチャンスなんですよね。判断は?選ばない暴力もあったんですね。CFともに傷つきます。Fとの婚約は破談になり、Cの様子を見に行きます。Bと一緒に歩くシーンは冒頭にありましたが、希望も若さもなくなった感じがします。映画自体は、堂々としたリズムで刻々と時を刻んでいきます。緩やかなテンポで、降り積もり雪がおもりのような感じさえするようなテンポで堂々と描ききってます、本当に見事です。まったくリズムが狂わない。そしてBがCを殺していることを知るのです。それは思いやりからなのですが、Bはその罪の重さと愛する理想の人を手にかけた苦しみで発狂します。冷静に見ると最後まで自分のペースを崩さなかったのはAだけです。そのまま「白痴」のままです。度が進みましたけど、そしてFは気づきます、「人を愛し続けるだけで憎むことをしなければよかった、はくちだったのは私のほうだ」と。誰も幸せにならないのです。すごい袋小路に投げ出されたまま終わってしまいました。しかしすごく充実したときでした。面白かった。

 

すごいことに気がつきました、この映画は「羅生門」と「生きる」の間の映画なのですね。悪いわけないですよ。また蒸し返しますが、ABCは誰かを常に愛し続けたのです。

3/17

 

「吸血髑髏船(きゅうけつどくろせん)」松野宏軌監督 1968年

これは笑える映画です。はじめから模型とわかる船で殺し。それも皆殺しです。どういう意味があるのかわかりませんが、気持ちがいい始まり方ではあります。なぜか、脅すだけでなく実際は殺されるでしょう。なのに映画ってなぜか死ななかったりしませんか、それがどうもすっきりしないのです。また悪が逃げ切る映画とか少ないのも反対的に三池監督の映画に気持ちよさを感じる一面でもあります。善良そうなやつが実は悪いやつだったりするんですがね。そういうのを見たいのです。この冒頭のシーンはいきさつがわかりませんが、まあ現実的だなとは思います。

神父に拾われた女の子(A)と彼氏(B)、一見して私には江ノ島と思えたところでボートに乗ってランデブーです。しかし海の中にもぐると骸骨を見ます。Aは一卵性双生児の姉がいて冒頭の事件で殺されたと思うのですが、台風にあって遭難したと聞かされてます。そしてなにか双生児にしかわからない相手の気持ちが伝わってくるのです。なにか生きているかのように。ここまで一気に持ってきてしまうテンポのよさがありますね。テンポがよすぎて、ちょっと待て、と思うくらい。船に行きたいと急に言ったかと思うと、ボートで嵐の中出て行くし、Bが泳ぎきれないのに、ボートが転覆したあと船に乗り込んでいるし、その船はがいこつだらけのあの冒頭の船です。大体3年間漂流しているんですかね。もうそういうこと考えると前に進めないので無視して楽しむしかないのです。

そこで航海日誌を見て冒頭の事件は積荷の金塊を盗む計画の実行だったのです。そしてAは船内を回りますが泣き声とか聞こえてきて気持ち悪い。実はカミングアウトですが、夜見ていたのですがここでやめました。ここからは違う日です。気持ち悪くなってきた。しかし一気に気持ち悪くさせる展開はすごいですよね。怖い映画は弱いんでまたにします。

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