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上の就職祝いに奮発して買ってあげたオートバイで街を親子で飛ばすシーンはこの映画での幸せのピークなのです。たかがそんなことで幸せのピークが来てしまうのです。

あとは、昔の男にまた娼婦にさせられたり、息子が仕事をやめて、あまり好ましからざる連中と付き合いだしたのも悲劇への加速の度合いを強める効果しかありません。

そのまま、犯罪、そして監禁、磔の治療(体が悪い囚人ということなのですが)、死。

最後にその死を聞いたとき母親も飛び降り自殺しようとしますが、市場で働く下層階級の人々はこの母親の気持ちがわかりすぎるくらいですので必死に止めます。その力で死ぬのをあきらめた先には教会が光り輝いているのです。

まさにこの舞台となった地域はイタリアとは思えない、合理主義の建物と市場、(それは汚い市場です)、そして対照的なローマ帝国の遺跡と周辺空き地、さらに最後の鐘もいわゆる団地の中に燦然と輝く教会の鐘でした。

このことは単刀直入に社会の貧富の差と下層階級の悲劇を見事に浮かび上がらせるのです。

音楽が「鉄道員」「ブ―ベの恋人」などの作曲家というだけあって、哀愁のある印象深いいいスコアを提供していると思います。この監督もここから「王女メディア」にかけては才気いっぱいの監督だと思います。

9/20

 

「ラ・パロマ」ダニエル・シュミット監督 1974年

この映画と「ジャスト・ア・ジゴロ」好きでしたねえ。

一人のキャバレーのショーの主役に恋をした男と女の話です。盲目的な恋は二人をひきつけ、この女は治療を受けて、精神的に参っていたところを助けられます。しかし本当に女は男を好きにはなってません。でも男は押し切り、結婚をします。

そのときの新婚旅行でのアリアはきれいというか、現実離れをしています。とにかくこの監督は夢のような物語、映像を作る人ですよ。ここがピークの天上の愛、背景はアルプスの山々、そして妖精が飛び回るような日常離れしたシーンです。この妖精が人間であることが現実的なんですが。このアリアの歌詞が最後まで運命を決定します。

しかし案の定、新婚家庭に友人を呼ぶとその友人と妻は浮気をします。その挙句に駆け落ちを、とまで言うのです。友人のほうは「金のかかる女だから、君の望む生活をさせてあげられない」と断ります。すると妻は金はもらっていけばいい、というのです。ここで夫の愛情の限界を知った妻は鬱に陥り、隠遁の生活を始めます。

しかしその友人はこの女を本当には愛しておらず、夫は最後まで愛し抜きます。それは骨まで愛して、というほど。

しかし遺書の通りに妻を埋葬した夫のもとに襲った幻は、結局はすべて夢だったという結末です。それは冒頭のほうで出てくる賭け事に負けて自殺する男のように。賭け事の勝負も夢を見ただけ、ということ。まさに「想像する力」という映画のごとく、想像の産物なんでしょう。その行き着くところは「愛」。

途中、双眼鏡で競馬を見ているところもあるのですが、それもストーカー的な愛情を意味していると思います。そして愛の生活のいいとこ取りですが、波乱もなければ、ということで不倫と最後の骨まで愛してという盛り上がりを作るのです。

9/21

 

「ラスト・タンゴ・イン・パリ」ベルナルド・ベルトリッチ監督 1972年

マーロンブロンドのゴットファーザー前ですね。この監督は先日のパゾリーニ監督の助監督のスタート。「殺し」を監督してます。脚本はパゾリーニ。

とにかく、音楽が良いし、映像も陰影の使い方がうまいのと色の定着がいいです。それらがパリをすごく魅力的に映し出してます。この映画ってパリが観たくなるときに見ることが多いのですが内容がちょっとねえ。あと主役の女の子、ちょっと美人じゃないですよね。

しかし主人公の二人のなにか、会った瞬間の行きずりの出会いはこの映画にエネルギーを与えていると思います。

男のほうは妻が不倫の末自殺したのです。その意味がわからなく途方にくれた状態。しかしこの男は性的な魅力がある男です。それに対して不倫に相手はまじめで几帳面なタイプなんです。なにかに飽きたのでしょう。しかし妻は一度もこの映画には登場しません(死体としてだけ)。そしてここで出てくるのはこの女のこの方。結局、この女の子と一緒にいるときは妻といるときと変わらないのでしょう。

しかし男は若い女を避けます。それは善意からなのです。しかし若い女は裏切られたと思ってしまう。そこに破局があるのです。そのあと男も若い女のところに戻ってきても、若い子が決めたことは変えることは出来ません。そのまま捨てられるように死んでいくだけ。

なにか寂しさと、安心感が同居する最後です。安心感はこの浮遊感漂う男の行き場所が見つかった気がするからです。

その前のダンスホールのタンゴのシーンで終わると思ったのですが、ここで終わらないところがいいとおもう。愛の誕生と破局まで描いたほうが良い。そしてこの映画はこの男の物語だとなってしまうのです。ですからマーロンブランドなんでしょう。ということで、いい映画です。

9/22

 

「暗くなるまでこの恋を」フランシス。トリュフォー監督 1969年

文通で出会い結婚したカップルの話です。はじめから結婚式なのでその後、の話。

場所は高級バニラで有名なレユニオン島(ちなみに私も使ってます)。

しかしどうもこの奥さん隠し事しているんですね。それでこの映画はこの女がどんな人間化について興味を持たせる形で進みます。案の定、銀行口座を妻と共有にしてからすぐにいなくなります。そして同じころ、この女の姉から手紙でなんで妹から返事がないのか、と問い詰められます。こうなるとあの女は偽物とやっとわかる夫。美人には気をつけましょう。ということなんですが映画ではいかにもこの女胡散臭く見えるのです。しかし主人公の夫はまったく信じてしまい、美人なんで有頂天に立ちます。

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